2022/08/22
第26回参議院議員選挙が7月10日に実施されました。当初は与党が勝利することが分かっている面白みに欠ける選挙でしたが、投票日直前の金曜日を境に様相が一変してしまいました。
7月8日金曜日午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、自民党候補者の応援演説中だった安倍元総理が、世界平和統一家庭連合(霊感商法で物議を醸した旧統一教会)に恨みを持った男に銃撃され、命を落としました。安倍元総理の非業の死により、参議院選の争点はどこかへぶっ飛んでしまい、安倍元総理の弔い合戦のようになってしまいました。
選挙結果はどうなったか。自民党の当選者は63人。これは改選議員数(125人)の過半数を自民党単独で確保したことになります。自民党の圧勝です。憲法改正に賛成する公明党、日本維新の会、国民民主の4党を合わせると177議席。これは参議院の議席数248の3分の2を越えます。衆議院でもこの4党で345議席。衆議院の議席数465の3分の2を越えています。憲法改正の発議には各議院の総議員の3分の2以上が必要と、憲法96条に規定されています。要件を満たしました。ついに憲法改正が現実味を帯びてきました。
改憲派の人々は昔からよく口にしていました。「現行憲法はアメリカから押し付けられたものだ。自主憲法を制定しよう。」と。そこで今日は、現行憲法の成立の過程を、終戦の年からちょっと振り返ってみたいと思います。
1945年(昭和20年)3月。B29による本土空襲が激しくなる。深夜から未明にかけて、東京、名古屋、大阪、神戸などの大都市や県庁所在地をはじめとする地方都市が、次々に襲われ焼け野原になる。何十万、何百万という人が命を落とし負傷し、住む家を焼かれた。戦闘員ではない一般国民を標的にした攻撃です。今の倫理から言えば、明らかに戦争犯罪です。
4月。米軍、沖縄本島に上陸。沖縄戦。10万人に及ぶ一般住民が犠牲に。
7月。米・英・中3国、ポツダム宣言発表。日本、これを黙殺。この段階でポツダム宣言を受諾していれば、その後の原爆投下もなく、ソ連軍侵攻もなかったのに。
8月6日。広島に原爆投下。死者約11万人。
8日。ソ連対日宣戦布告。日本敗戦濃厚なのにこの時期に参戦。ソ連(ロシア)という国の本性が垣間見える。
9日。長崎に原爆投下。死者約7万人。どんな理由を付けようとも、原爆投下もやはり戦争犯罪です。
14日。ポツダム宣言受諾。15日。終戦。
18日。満州国消滅。ソ連、千島列島へ侵攻。
9月2日。ミズリー号上で降伏文書調印。ソ連、国後島占領。3日。ソ連、歯舞群島占領。まるで火事場泥棒のような行為。
10月4日。マッカーサー、近衛国務相に改憲を示唆。
11日。マッカーサー、幣原内閣に5大改革(労働組合の結成、婦人の解放、教育の自由化、経済の民主化、秘密警察の廃止)を指令。
27日。憲法問題調査委員会設置(委員長 松本蒸治)。
1946年(昭和21年)1月1日。天皇の人間宣言、神格を否定。
2月3日。マッカーサー、GHQ民生局に基本3原則(国民主権に基づく天皇制、戦争放棄、封建制の廃止)を示して、憲法草案の作成を急がせる。
8日。憲法改正要綱(松本案)GHQに提出。
10日。GHQ民生局、憲法草案を完成。
13日。GHQ,松本案を否定。GHQ案(マッカーサー案)を日本政府に手渡す。
22日。閣議、マッカーサー草案を採用決定。
26日。第1回極東委員会。
3月2日。政府GHQ案に基づく憲法改正案を作成。6日。憲法改正案要綱を発表。
4月10日。新選挙法による第1回衆議院議員総選挙。17日。日本政府、憲法改正草案を発表。
22日。枢密院、草案の審議開始。6月8日可決。
6月25日。衆議院が審議を開始。8月24日修正可決。
8月26日。貴族院が審議を開始。10月6日修正可決。
11月3日。日本国憲法公布。
1947年(昭和22年)5月3日。日本国憲法実施。
日本が独立を認められたのが、サンフランシスコ講和条約が発効した1952年(昭和27年)4月28日です。7年間のGHQによる占領がありました。これと比べて憲法改正は2年足らずで成し遂げられました。しかもマッカーサー草案ごり押しで。押し付けられた、という感覚は確かにあります。
しかし、急いだおかげで、アメリカ以外の他国(特に中国とソ連)が日本の占領政策に口出し出来なくなりました。分断国家にならずにすんだのも、この憲法のおかげかも知れません。
改憲勢力の本命は憲法9条です。制定当初と国際状況も大きく変わりました。修正の必要性は理解できますが、現行憲法は、日本国民が多大な犠牲を強いられた末に手にしたものです。安易に空気に流されず、党利党略に拘束されず、議員一人ひとりが己の良心に従って判断行動することを、日本国民は願っていると思います。
日本国憲法制定からおよそ70年。時代も昭和、平成、令和と変わりました。制定当時とは社会状況も大きく変わり、その頃では想定されていなかった問題もたくさん出てきました。
生活面で言えば、消費者に関する問題です。古くはサラ金問題、今でも問題になっている霊感商法、そして現在では還付金詐欺です。消費者の権利が憲法上規定されていないので、個別対応にも限界があります。
振動、騒音、煤煙といった公害問題から始まった環境問題もそうです。国や大企業を相手に、憲法13条や25条を根拠に闘っても、なかなか思うようには行きません。
性にまつわる問題もあります。今の憲法では男性と女性しか念頭にはありませんが、現代ではL(レスビアン)G(ゲイ)B(バイセクシャル)T(トランジェンダー)と性の多様性が徐々にクローズアップされ始めています。
衆議院の解散がない以上、これから3年間は現有勢力の状態が続きます。国会議員の皆さんには、空気に流されず、党利党略に拘束されず、良心に従って判断し行動してもらいたいものです。